『在特会の何に危惧するのか』
 
平成22年9月10日
野村旗守(ジャーナリスト)
 

【「スパイの子」「日本から叩き出せ!」】
  世間一般での認知度は低いにもかかわらず、ネット言論界の一部では異常なまでの関心を集めていた市民運動が、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」をはじめとする「行動する保守」の活動だった。その「在特会」の存在が一躍全社会的に注目されたのが八月一〇日。京都府警が威力業務妨害、集団的器物損壊、名誉毀損の容疑で会の幹部とその関係者、計四人を逮捕し、さらに東京の在特会事務所や会長宅などを家宅捜索したときである。
  ことのはじまりは、昨年一二月四日。逮捕された四人(西村斉、川東大了、荒巻靖彦、中谷辰一郎=関係団体「主権回復を目指す会」幹部)を含む関西地域の在特会支持者一〇人が京都市南区の京都朝鮮第一初級学校校門前にあらわれた。第一初級学校の道を隔てた向かい側には、勧進橋児童公園がある。在特会の面々は、「第一初級学校がおよそ五〇年ものあいだ勧進橋児童公園を不法占拠している」として、学校が公園内に設置していたスピーカーの電源コードを切断し、体育の授業に使用していたサッカーゴールや朝礼台を「返す」として、初級学校の校門前まで移動させた。そして授業中にもかかわらず拡声器を使い、その後一時間にわたって朝鮮学校および在日朝鮮人を非難する過激な抗議活動を繰り広げたのだ。
  在特会自身がネット上にアップした動画が残っている。
  再生してみると、彼らが拡声器を使って投げつけた言葉のなかには、明らかな差別発言や、「業務(授業)威力妨害」「名誉毀損」と言われても抗弁できないような、数々の罵詈雑言が含まれている。
「戦争中、男手のないところから、女の人をレイプして奪ったのがこの土地」「日本の先祖からの土地を返せ!」「これはね、侵略行為なんですよ、北朝鮮による」「ここは北朝鮮のスパイ養成機関」「犯罪者に教育された子供」「朝鮮ヤクザ」「こいつら密入国者の子孫」「日本から叩き出せ!」
  朝鮮学校の教員たちが「子供たちが怯えているから」と制止に入ると、
「なにが子供じゃ、スパイの子供やんけ!」「キムチ臭いで!」「約束というのはね、人間同士がするもんなんですよ。人間と朝鮮人では約束が成立しません」「日本に住まわしてやってんねや。な、法律守れ」「端のほう歩いとったらええんや、はじめから」「我々はいままでみたいな団体みたいに甘うないぞ!」「この門を開けろ、こらぁ!」・・・・等々。
  この様子は証拠として学校側が裁判所に提出したビデオ映像にも収録されている。さらに今年の一月と三月にも、在特会とその関係者たちは、動員数を増やし、デモ隊を組んで初級学校への抗議活動をおこなった。
  一方、第一初級学校を所管する学校法人京都朝鮮学園は、九六名の大弁護団を擁し、在特会とその関係者を刑事告発した他、四六〇〇万円の損害賠償を求めて民事訴訟も起こした。さらに、原告側は一月に撮影された動画を国連の人種差別撤廃委員会にも持ち込み、在特会の差別行為を訴えた。
  逮捕当日、東京の在特会本部(秋葉原)の桜井誠会長はニコニコ動画を通じて生中継にのぞみ、緊急声明を発表する。
「逮捕は遺憾であり、我々が非難される謂れはまったくない」「原因をつくったのは朝鮮学校のほうであり、彼らが公園を不法占拠などしなければ我々がこのような抗議する必要もなかった」・・・・。
  続けて桜井は、「もし京都府警が我々に対してだけ片手落ちの捜査をするなら、こちらとしても最終手段を講じざるを得ない」と犯行予告めいた言葉を口にし、さらに「逮捕された四人の行動を一二〇%支持する」とまで言い切った。そして最後に、彼らに弁護士をつけるためのカンパを呼びかけたのだった。

【過激なパフォーマンスと動画宣伝】
  二〇〇六年一二月におよそ五〇〇人の会員から発足した在特会は、この種の運動としては異例の急拡大を続けた。会の公式サイトによれば、クリック会員とはいえ今年六月現在の会員数は九〇〇〇人を超えており、彼らが目標として掲げた「一万人」にもうすぐ手が届こうとしている。会員は男性約七七〇〇人に対して女性約一四〇〇人と圧倒的に男性会員が多く、北海道から沖縄まで全国津々浦々に分散して二六都道府県に支部を持つ。国内のみならず、海外にも多くの賛同者がいるようだ。
  そして二六条からなる細かな会則を有して組織を統括し、綱領の代わりに「七つの約束」という活動方針を発表している。その「七つ」とは、以下の通りである。

  1. 在日による差別を振りかざしての特権要求を在特会は断じて許しません。
  2. 公式サイトの拡充、各地での講演会開催などを様々な媒体を通じて在日問題の周知を積極的に行っていきます。
  3. 各所からの講演要請があれば在特会は可能な限り応じ、集会の規模を問わず講師の派遣を行います。
  4. 「在日特権に断固反対」「在日問題を次の世代に引き継がせない」意思表示として在特会への会員登録を広く勧めていきます。
  5. 当面の目標を登録会員数一万人に定め、目標に達し次第、警察当局や法務当局、各地方自治体、各政治家への在日問題解決の請願を開始します。
  6. 在日側からの希望があれば、放送・出版など様々なメディアにおいて公開討論に応じます。
  7. 不逞在日の犯罪行為に苦しむ各地の実態を知らしめ、その救済を在特会は目指していきます。
つまり、在特会の掲げる活動方針からすると、今回の京都朝鮮第一初級学校への抗議活動は、「七」の「不逞在日の犯罪行為に苦しむ各地の実態を知らしめ、その救済を目指していきます」という「約束」を果たしたということになるのだろうか・・・・。
  「在日特権に断固反対」、「在日問題を次世代に引き継がせない」、そして当面一万人の会員数を目指すという目標のために在特会が最大限に利用してきたのが、インターネットである。ネットを通じて会員を募り、デモや集会を告知する。そしてデモや集会の様子をビデオに収めては「You Tube」や「ニコニコ動画」などに投稿し、活動の様子を逐一公開している。
  釣りズボンに蝶ネクタイという独特のスタイルで登場し、随所に差別用語を織り交ぜながら長広舌を振るう桜井誠会長の過激なパフォーマンスに魅せられたという者も少なくない。「さっさと日本から出て行け、朝鮮人」「ゴキブリ」「キチガイ」・・・・。
  会員の一人は、「動画を見てゾクゾクした。自分では到底口にできないと思っていたようなこと、ある種の放送禁止用語みたいな言葉を大音量で流している在特会の抗議活動に、逆に潔さを感じた。気がついたら自分も参加していた、という感じ」と話す。
  かつて私の取材に答えて、桜井自身もこう言ったことがある。
「政治を動かすには数かカネしかない。我々にはカネはないのだから、ネットを通じて数を増やしていく以外方法はない。そのためにはどんな誹謗中傷も甘受します。どんなパフォーマンスだってやりますよ」
  そして、この動画手法を取り入れた二年ほど前から、彼らの運動に共鳴する賛同者たちが飛躍的に増え始めたのだ。アピール活動のなかで、警察や反対勢力と派手な揉み合いが起こると、動画へのアクセス数が劇的に増加する。さらにそれが次回の動員へとつながってゆくという構図だ。八月一〇日に四人が逮捕され、桜井緊急声明を発表した直後には、一気に三〇〇名もの会員が増えた。

【「在日特権」とは何か】
かつて朝鮮総連が朝銀信用組合を通じて不正に捻出した資金を北朝鮮に送っていたという、いわゆる「送金疑惑」問題を取材した経験から、私は在特会の運動を人並み以上の関心を払って見守ってきたつもりだ。しかし、当初から感じていた違和感のため、その運動に深くコミットすることはなかった(一度だけ会のほうから講演依頼をいただいたこともあったが、これを理由に辞退させてもらった)。違和感を感じたというのは、彼らの主張のなかにある、ある種の針小棒大的な性格のことである。彼らの言葉の激しさ、そして声の大きさに反し、問題設定の仕方があまりに小さすぎるような気がしてならなかったからだ。
  それを「特権」と呼ぶかどうかは別として、日本社会のなかに在日韓国・朝鮮人などの特別永住者を特別扱いする現象が依然として存在する。これは事実だ。在特会やそのシンパの説明によれば、たとえばそれは次のようなものである。

  • 特別永住資格
    戦前・戦中から日本に居住していた在日韓国・朝鮮人等とその子孫には「特別永住資格」が与えられ、外国籍のまま何代にもわたって日本に住むことができる。また他の外国人の再入国許可が三年以内であるのに較べ、特別永住者である在日は四年ないし五年までと優遇されている。また特別永住者である在日は、たとえ凶悪犯罪を犯しても強制退去になりにくいなど、他の在日外国人に比して優遇されている。
  • 通名の使用
    在日韓国・朝鮮人の多くが本名の他に「通名」と呼ばれる日本名を所持しており、これを使って朝銀・商銀等の民族系金融機関に本名以外の架空口座を設置することができた。またこれによって、在日の商工人などは所得隠し、資金洗浄が容易となった。あるいは、朝日新聞など日本の一部マスコミは在日社会に配慮するあまり、在日が犯した犯罪に関して通名のみを報じ、実名報道を避けてきた。
  • 無年金問題
    八二年に国民年金法が改正されるまで、日本国籍でない在日は国民年金に加入することができなかった。このためある年代層の在日には年金受給資格がない。にもかかわらず、一部の自治体は朝鮮総連や韓国民団の要請を受けて、年金(もしくは福祉給付金など)を支払っている。
  • 生活保護受給率
    一般の日本人と比し、在日の生活保護受給率が際立って高い。約四〜五倍の開きがある。
    ・・・・等である。
  これら「在日特権」のうち、私がとくに深刻かつ悪質であると感じるのは民族系金融機関に複数の口座を所有し、脱税やマネーロンダリングに利用していたという架空口座の問題のみだった。とくに朝銀の場合は朝鮮総連と直結し、そこから捻出された資金が北朝鮮の核開発やミサイル開発に費消されてきた疑いが濃厚であるのだから、問題はきわめて重大だ。しかし、それも〇二年に法改正が為され、信用組合に対する監督義務が自治体から国(金融庁)に移行したことで現在大幅に改善されたはずである。
  その他に関しては在日側に問題がないとは言わないが、、無年金問題に象徴されるように歴史的経緯や諸事情があり、一概に在日だけを攻め立てるのは無理がある。それ以外にも、「在日特権」が叫ばればじめた当初、「在日は国民年金保険料が免除」「上下水道基本料金がタダ」「NHK受信料を支払わなくてよい」など、まるで在日はすべての公共料金を免除されているかのような流言飛語がネット上に飛び交ったが、これらは憶測に基づくただのデマ情報であった。

【「在日特権」の起源】

 以上のように、すべてが事実ではないにせよ、日本社会のなかにはある程度の特別永住者(在日)優遇制度が残っている。
  では、これらの「在日特権」がなぜ生まれたかといえば、これは六五年前の戦争に日本が負けたからだとしか言いようがない。敗戦という一大パラダイム転換の後で、さまざまな価値の逆転現象が起こった。「植民地朝鮮」は開放され、二つの独立国となった。現代コリア研究所所長の佐藤勝巳によれば、終戦直後の混乱のなかで暴れまわった一部の在日は、こんなふうに嘯いていたという。
「我々は日本人によっていままで奴隷的差別待遇を受けてきた。終戦によって解放された現在、我々は連合国人であるから敗戦国日本の法令に従う義務はない」「我々は二等国民で日本人は四等国民となった。したがって我々は日本人より優遇されるのが当然である」・・・・。
  もちろん彼らは連合国人ではなく、戦勝国でも敗戦国でもない「第三国人(The Third Nationals)」だったが、在日のなかには自分たちを「戦勝国民」と勘違いして日本人を見下し、「朝鮮進駐軍」を僭称して闇市等で暴れまわったものもいた。
  このような不遜な態度と過度の被害妄想は戦後も続き、やがて在日社会全体の習い性のようになってゆく。
  総連・民団という民族団体のうちでも、とくに総連のほうに顕著だったが、日本の当局と交渉するにあたっては団体で押しかけて威嚇を繰り返し、“民族差別”や“過去の歴史”を前面に持ち出して理不尽な要求でも無理やり呑ませてしまう。これが当局に対する在日得意の交渉術だった。また、敗戦によって贖罪意識を刷り込まれていた日本人の側も、簡単に総連側の要求に屈してしまうという悪循環が続いていた。
  たとえば一九六七年十二月、総連系在日商工人で「送金王」の異名をとったこともある貸金業者の脱税問題を契機に、国税局はその取引先である朝銀東京の前身・同和信用組合に強制捜査を断行したことがある。この時の当局と朝鮮総連の攻防は凄まじく、総連側はバリケードを築いて防戦し、国税側は四〇〇人の機動隊に見守られながら捜査を開始したと伝えられている。この事件の後、今度は逆に総連の指示を受けた在日朝鮮人たちが全国各地の税務署に抗議行動を起こし、日本中の税務行政が困難に陥ったこともある。
  以後、日本の税務当局と朝鮮商工会のあいだで長きにわたる話し合いが続いた。なかでも朝鮮商工会(朝鮮総連)にとって最大の“成果”は、国税当局のあいだで結ばれたという「五項目合意」(またの名を「五か条の御誓文」ともいう)だっただろう。主に旧社会党を介して粘り強い交渉にあたってきた朝鮮商工会は、七六年、ついに「朝鮮商工人のすべての税金問題は、朝鮮商工会と協議して解決する」(団体交渉権)などの条文を含む「五項目合意」を認めさせたのだ。これによって、在日商工人の税金対策は日本人のそれと比べて大幅に有利になった。また、これに倣って、民団のほうも似たようなことをやっており、これはたしかに在日特権と言えた。
  しかしこれらの「合意」が機能していたのも、せいぜい九〇年代までであり、以降は形骸化している。さらに先述のように、信用組合に対する監督義務が自治体から国に移行し、民族系金融機関の架空口座に捜査のメスが入ったことにより、最大の在日特権だった「納税」に関する問題はほぼ消滅したはずだ、というのが私の考えだ。
  つまり、在特会やそのシンパが重大視する「在日特権」とは、敗戦のパラダイムシフトによって生じたある種の「誤解」の産物であり、現在はその「残滓」が残っているに過ぎない。八〇年代、九〇年代と、強面で鳴らした朝鮮総連が幅を効かせていた時代にやったというならともかく、財政難に喘ぐ朝鮮学校の前で大の男たちが徒党を組み、声を張り上げ、拳を突き上げて「残り滓」に抗議している図は少なからず醜悪だし、いささか滑稽ですらある。

【明らかに過剰反応】
  ようするに、私の眼から見ると「在日特権を許さない」という在特会の活動は、「在日特権」なるものがほとんど消えてなくなった後になってはじまっているかのように見えて仕方がないのだ。ないものをあると言い、あるいは少ししかないものがいっぱいあると言って相手を不当に攻め立てるなら、これは言いがかりであり、チンピラヤクザの因縁のたぐいである。
  在特会の行動がすべて悪いとは言わない。彼らがおこなってきた活動のなかでも、外国人参政権反対運動や人権擁護法案反対運動等には私も大いに賛意を表するものである。しかし、今回の京都朝鮮第一初級学校に対する抗議行動はどう見ても過剰反応であり、抗議行動として許される枠を超えている。
  在特会側の説明によれば、「朝鮮学校による五〇年間の公園不法占拠」の情報は近隣の住民からもたらされたものであるという。  正確に「五〇年間」かどうかは別として、初級学校側が長期にわたってサッカーゴールや朝礼台を勧進橋公園に置き、自校のグランドのように使用していたのは事実だ(この件に関し、逆に在特会側が第一初級学校を都市公園法違反で告発している)。公園を管理する京都市の南部緑管理事務所によれば、同様の苦情は市のほうにも過去に何度かあったようだ。
  これをもって「原因をつくったのは朝鮮学校側だから、悪いのは奴らだ」と、桜井は主張する。しかし、たとえば隣の家の車が自分の家の駐車場に大きくはみ出して長時間停まっていたからといって、怒りにまかせてフロントガラスを叩き割ってしまったら、これは立派な犯罪行為である。それに公園は二四時間に開放されており、別に日中でも他の住民が入れないというわけではなかった。「不法占拠」という表現は明らかに言い過ぎだ。
  それなのに、平日の授業時間に初級学校に押しかけた在特会の面々は冒頭のように、およそ一時間にわたって「スパイの子」「朝鮮ヤクザ」「日本から叩き出せ」などと卑劣極まりない暴言を投げつけたのである。
  在特会の活動に抗議する緊急集会を開いた「朝鮮学校を支える会」によれば、この日、初級学校では第一、第二、第三、さらに滋賀初級学校の児童たちが集まって交流会が開かれていた。見知らぬ大人たちから大音量で「スパイの子!」などと罵られた子供たちは教室のなかで怒号に怯え続け、パニック状態に陥ったという。当然だろう。また、原告・京都朝鮮学園が在特会らを訴えた訴状によれば、三年生の児童のなかには直接被告らに声をかけられた子供たちがいて、その子らはその後顔をこわばらせて校舎に入り、教室に戻るや火がついたように泣きだしたともいう。
  かつてパチンコ送金疑惑やテポドン発射事件など、朝鮮総連や北朝鮮本国が糾弾されるような騒動が起こるたび、朝鮮学校の生徒が嫌がらせや襲撃に遭う事件が頻発した。すべてとは言わないが、これらのなかには「チマチョゴリ切り裂き事件」のように、総連側が被害者を装うために演出されたヤラセあるいはマッチポンプと疑われる事例も少なくなかった。しかし、今回の京都の事件に関していえば、何よりも在特会自身が撮した動画が証拠として残っており、れっきとした加虐行為であることに間違いない。しかもその理由が「ミサイル」や「不正送金」ではなく、「公園の違反使用」なのだ。
  そして、その彼らの行為を「一二〇%支持する」というのだから、在特会のあり方と会長・桜井の人格そのものに疑念を抱かざるを得ない。 

【魔女狩り法案促す利敵行為】
  今回の逮捕については、裏で与党民主党の意向が強く働いていたのではないか、という指摘もある。在特会メンバーの逮捕が、管談話発表当日の八月一〇日におこなわれたというタイミングも、その憶測に信憑性を持たせる。逮捕後、私が桜井に質したところ、彼もまた国策捜査の可能性を大いに疑っていた(「略式起訴で済むところを、数百人もの警官を動員して逮捕に踏み切らせたのは、明らかに異常だ」と彼は言った)。
  たしかに、民主党が党を挙げて推進する「永住外国人に対する地方参政権付与法案」の成立に向けて、これに猛反対する在特会の活動が目障りだったのは間違いない。また、民主党政権発足以来、いわゆる「右」の運動に警察の介入が激しくなったことも事実だ(「天皇の政治利用だ」と騒がれた昨年十二月の習近平中国副主席来日の際には、右翼に対する取り締まりがきつくなり、「立小便は絶対にするな」が彼らの合言葉になっていたという)。しかし、それだからこそ、保守革命を目指すという彼ら「行動する保守」の運動にも「革命的警戒心」が必要なのではないか。 「つくる会(教科書)」「救う会(北朝鮮拉致)」と、九〇年代中盤以降に惹起し、一大国民運動となっていった新保守運動が、二〇〇〇年代に入ってともに内紛を重ねて形骸化してしまった以降、この閉塞状態を打ち破り一点の風穴を開けたのが在特会ら「行動する保守」の運動だった。彼らのパフォーマンスが「国家」に目覚めた主に若者たちのあいだに蟠っていたフラストレーションを掬い上げ、共感を呼び起こしたのは事実だろう。しかし、在特会の過激な街宣活動には心酔者も多い一方、「日本版ネオナチ」「日の丸フーリガン」「ネット右翼の場外乱闘」などと反対がする側からの攻撃の声も絶えない。今回の騒動によって「一気に三〇〇人の会員を増やした」と在特会は豪語するが、一般社会ではおそらくその何倍、何十倍かの規模で彼らの行動に対する嫌悪と反感を募ったはずである。
  そして私が何より危惧するのは、在特会の活動が逆に、彼らが忌み嫌い最大限に警戒しているはずのもう一つの法案、すなわち「人権擁護法案」を推進しようとしている側に、大いに利する結果になってしまっていないか、ということだ。
  今回の事件で、朝鮮総連が在特会を国連人種差別撤廃委員会に告発したように、その実態がいかなるものであれ、子供や女性に無差別に吠えかかるような行為は、彼らが「敵」と見做す勢力にまたとない口実を与え、結果として「二一世紀の魔女狩りが日本で幕を開ける恐れがある法案」「そして外国人が日本人を取り締まるという、国家としての主権放棄という悪夢のような事態に陥る可能性が余りにも大きい」(桜井誠ブログ)危険な法律である人権擁護法の成立を強く促すことになってしまうかもしれないという事実に、なぜ彼らは気づこうとしないのだろうか。
  京都朝鮮学園がつけた九六名の大弁護団のうち、七三名を送り込んだ京都弁護士会の村井豊明会長は事件後、在特会に対し抗議声明を発表した。
「今回の行為は、公園の使用状況に対する批判的言論として許される範囲を越えて、国籍や民族による差別の助長・煽動に該当するものであり、このような嫌がらせや脅迫的言動はいかなる理由であっても決して許されず、在日コリアンの子どもたちの自由と安全を脅かし、教育を受ける権利を侵害するものである」
  京都弁護士会が所属する日弁連(日本弁護士連合会)もまた人権擁護法案推進勢力の一つであり、今回の事件によって、法案成立に向けいっそうその意を強くしたはずだ。
  人権擁護法が成立すれば、今度は永住外国人に参政権がないのは差別だということにもなりかねない。永住外国人に参政権が付与されれば、今度こそ真の意味での在日特権が生まれることになるのは確実である。


 
<<論文集 TOPへ    
<<主権回復を目指す会TOPへ