意見交換会 『冬場の電力危機を暴く』
原発なしでも電力は足りる!
 
平成23年11月30日
松本 英志
 

●日本の電力供給の実態

  • 発電実績
    日本の電力供給は水力・火力・原子力でほぼ100%を供給。
    その内訳は、水力10%、火力60%、原子力30% (福島第一原発事故以前の年間平均)
    自然エネルギーは、ほんの1〜2%程度に過ぎない。
  • 許認可最大出力
    電力は許認可事業であるから、発電種ごとにその許認可されている最大発電量が決められている。
    その許認可最大出力の比率は、原子力の1に対して火力2.7である。
  • 設備利用率
    日本の電力は火力と原子力でその90%が発電されており、その内訳は火力が60%で原子力が30%。
    日本の電力の30%は原発である、と言われているのはこのためである。
    これを発電所の設備利用率(稼働率)で観てみると、火力は45%で原子力が60%である。
    これは福島第一原発事故以前の10年間の平均値であるが、それ以前は原子力が80%であった。
    すなわち、原子力は福島原発事故以前にも、かなりの故障や事故のために稼働率が60%程度にまで落ちていたのである。これは、電力の行政官庁である経済産業省・資源エネルギー庁の電力統計データにもとづいて算出したものである。

●「原発なしでも電力は足りる!」

  • 原発全廃でも電力は十分に足りる
    電力統計データから見て取れるのは、許認可最大出力比が原子力の2.7倍もある火力の稼働率が45%しかない、という事実である。
    その45%しか稼働していない火力が、日本の電力の60%を供給しているのであるから、この稼働率を70〜80%に上げれば、原発を全廃しても電力供給は十分に賄えることは自明である。
  • 老朽化して運転終了となった発電設備は、電力統計からは除外される
    資源エネルギー庁の電力統計データには、老朽化して運転終了となった発電設備は計上されない。
    何故ならば、電気事業法によって電力会社には廃止する発電設備の届出をする義務があるからである。届出された廃止設備は、当然に電力統計 データから除外される。
    よって、電力統計データに計上されている火力発電設備は全て稼働できるものに限られているので、未稼働である55%の火力発電設備とは、老 朽化して運転不能なものではなく、単に遊休させているだけのものである。
  • 今、必要なのは原発の再稼働ではなく、火力の十分な稼働体制の即急な整備
    火力の稼働率を70〜80%に上げれば、原発の全廃分は十分に賄えるのであるから、今必要な電力政策とは、今までわざと遊休させてきた火力 の稼働率を「正常」な70〜80%に上げるための即急な体制整備である。
  • 最新鋭のガス・コンバインドサイクル発電機が続々導入されている火力
    火力発電の技術革新は大変に進んでおり、発電効率の非常に高いガス・コンバインドサイクルという最新鋭の発電機の導入が進んでいる。
    実は日本には、既に世界でも最新鋭のガス・コンバインドサイクル発電機が導入されている。
    また、この新鋭発電設備はその設置も容易で、かつ段階的な設備拡張が出来、しかも導入期間も数ヶ月程度と非常に短くて済む。
    事実、原発の停止による緊急措置として、各電力会社の既存の火力発電所にこのガス・コンパイドサイクル発電機が緊急導入されている。
  • 火力を意図的に軽視・困難視したがる「原発推進勢力」
    原発をやめて火力にすれば燃料費が跳ね上がると、原発推進勢力は火力の困難視に躍起となっている。
    しかし、火力の主流となりつつあるLNGは産出量が膨大であり、しかもその資源国がウランに比べて多いため、エネルギー資源封鎖による困難 度も低い。
    単純に燃料コストだけで比較すればウランより高値ではあっても、原発の膨大な総コストに比べればLNG火力の方がはるかに安上がりであろう。
    燃料コストの比較だけで原発が火力よりも安上がりだ、と主張している原発推進派の理屈には大変な欺瞞がある。

結論
上記より、原子力から火力への全面的な切り替えによる「電力需要の充足」は決して不可能なことではなく、電力政策の切り替えによって可能であると 見做し得る。

以下は、補足的な解説のための項目となる。

●原発は採算が取れない発電であり、巨大な「金食い虫」である

  • 火力発電にはない膨大な送電コスト
    日本の原発は原子力法によって過疎地にしか立地できない。
    従って、最大の電力消費地である大都市・工業地帯に立地できないため、長大な送電線を設けて送電する必要があり、その送電設備の建設・運用 に供するコストが膨大である。
  • 巨額の地元交付金
    原発を立地する過疎地の地元には多くの交付金をばら撒く必要があるため、その年間総額は巨額となる。これまた、火力発電には不要なコストで ある。
  • 建設コスト・廃炉コストが莫大
    原発の建設コスト、廃炉コストは莫大である。
  • さらに巨額の核廃棄物管理コスト
    火力には全く不要な「核廃棄物」の管理コスト、これには原発の建設コスト、廃炉コストをさらに上回る巨額のコストを要する。
    しかも、この管理年数は千年〜万年を要するという、人間の能力をはるかに超えたものである。

●運用における柔軟性のなさ

  • 出力調整ができない
    原発は、火力発電のように電力需要の多寡に応じた発電出力の調整ができない。
    このため、年間を通じて最低の電力需要分(ベース電力)しか原発は運用できない。すなわち、原発のみでの電力供給は不可能で、必ず火力などの出力調整の可能な発電との併用でなければ成り立たない。
  • 設備(原子炉)の入替え(更新)が非常に困難
    火力発電ならば、発電設備が老朽化しても新設備への入替えは比較的容易にでき、入替えに要する期間も比較的短くて済む。
    原発の場合は、老朽化した原子炉は廃炉にしなければならないが、この廃炉には、まず10年は要する。つまり、設備の更新が非常に困難なのである。

●エネルギー自給の担い手にはなれない
原発の核燃料であるウランは100%輸入に頼っており、国内で自給できない。よって、同じく燃料を輸入に頼っている火力発電に取って代わる「エネルギー自給」の担い手にはなれない。

●共産党独裁国家と全く変わらない「金食い虫の原発」を維持できる日本の電力政策のカラクリ

  • 電力会社の地域独占体制
    国民は電力会社を選べない。
    何故ならば、日本の電力会社は競合する他社のない地域独占事業だからである。
  • 「総括原価方式」
    コストをかければかける程、電力会社が儲かるという仕組み。従って、電力会社は最大のコストを要する原発をやればやる程、設けることができるのである。
  • 「電力料金」という名の「税金」
    電力会社の地域独占で自由競争原理は働かず、「総括原価方式」で一方的に決められる日本の電力料金。これは国民にとって、事実上の「税金」 でしかない。
  • 「電力料金」に含まれている経産省の特別会計予算
    さらには、この「電力料金」には経済産業省の特別会計予算も含まれている。これは文字通りの「税金」であり、経産省の重要な資金源となっている。

●国民から収奪し、「原子力ムラ(電力会社、原子力関連企業、ゼネコン、経産省、政治家、御用学者など)」ばかりを太らせる搾取システム

  • 「原発の電力は安い」という大ウソ
    巨額の建設・廃炉コストに核廃棄物の管理コスト、さらには巨額の送電コスト、原発を立地する地元への巨額の交付金などなど、これが電力会社 の地域独占とコストをかければかける程、電力会社が儲かるという「総括原価方式」によって維持されている原発。 この原発の電力が安いはずがない。
    原発とは、まさに「電力料金」という「税金」で国民から収奪して、原発推進勢力だけを太らせる「国民搾取システム」である。

 
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