シナ人のデタラメ歴史観
 
國民新聞 平成十六年十二月二十五日
本紙論説委員長 酒井 信彦
東京大学教授
 

 『中国人の歴史観』という本を読んで、その内容の悪質さに一驚した。この本は今から五年前に文藝春秋社の文春新書として出版されたもので、著者は劉傑という一九六二年生まれのシナ人で、近代の日支関係史を専攻する早稲田大学の助教授(現在は教授らしい)である。

 本書は二百三十頁の分量があるのだが、著者の言いたいことの核心は、目次より前の「はじめ」の部分(九頁)に既に書いてあった。それはこうである。

 「つまり、社会主義や共産主義のイデオロギーが中国外交の方向を決定づける要因ではなく、中国の重い過去が現代中国外交の方向を決めている。中国人は『侵略され、独立を奪われた』近代史のなかで現代を生きており、屈辱的な近代史からいまだに抜け出せないでいる。ここに中国の対外政策を解明する鍵がある」

 最初の部分、中共外交の基本が共産主義にあるのではないという点は、私も以前から主張してきたことであり賛成である。この点を日本では誤解している人々が多く、共産主義政権が潰れれば、対日外交も良い方向に転換すると期待する向きが、保守派の中にも存在するようだが、それは間違いである。中共外交の根本にはシナ人のウルトラ・ナショナリズムがあることは、最近の凄まじい対日敵意の噴出でようやく認識されてきたが、劉傑氏は五年前にそれを指摘していた。

 ただし、その様なナショナリズムが成立した理由を、「重い過去」、「屈辱的な近代史」のためであると説明し、それは当然であるかのように説いているが、これは極めて歪曲した歴史解釈と言わざるを得ない。「『侵略され、独立を奪われた』近代史」の内、曖昧な概念である侵略はともかくとして、「独立を奪われた」と言うのは、完全な嘘である。なぜなら、シナ人が近代史において独立を喪失したことは、全くないからである。

 大東亜戦争以前の帝国主義時代において、アジアの独立国は極めて少なかった。日本の外は中華民国、シャム(タイ)、ペルシャ(イラン)、トルコなどである。南アジア文明を生み出した大国インド、ビルマ、ベトナムも独立を喪失していた。しかし中華民国は国際連盟の加盟国として存在していたのである。これは紛れも無い歴史的事実である。

 結局、シナ人は全くの虚偽に基づいて、怨念ナショナリズムを振り回しているにすぎない。「いまだに抜け出せない」のではなく、意図的に抜け出そうとしないのだ。デタラメ歴史観をでっち上げ、それを怨念ナショナリズムのエネルギーにしているのだ。本当に独立を喪失した国々、つまりシナ人より遙かに重い過去、屈辱的な近代史を生き抜いた人々でさえ、このようなみっともない怨念ナショナリズムは見られない。あるのは朝鮮人(韓国・北朝鮮)だけである。ここにシナ人の醜悪な心性が見事に表れている。

 シナ人の邪悪さ、デタラメさはそれだけではない。近代史において「侵略された、独立を奪われた」と、大騒ぎしている当人が、現実の侵略者として他人の独立を平気で奪っているのである。

 中共の領土九百六十万平方キロメートル(日本の二十六倍)の内、半分以上はチベット・ウイグル・モンゴル三民族の土地を、シナ人が侵略、併合したものである。そこでは侵略は過去ではなく現実であり、チベット人、ウイグル人、モンゴル人は、毎日毎日、屈辱の生活を強いられ、誇りと自尊心を無茶苦茶に踏みにじられている。

 「己の欲せざる所は、人に施す勿れ」と、孔子は二千五百年前に言っている。劉傑氏もこの諺を引用しつつ、「中国と日本は孔子が唱えた東洋的道徳観を共有している」(五十八頁)と述べているが、それこそ完全な間違いで、シナ人は論語の内容を全く理解できていない。まさに論語読みの論語知らず、猫に小判、豚に真珠である。

 さらに、シナ人から屈辱を受けているのは、中共国内の諸民族だけではない。我々日本人もシナ人によって、凄まじい屈辱を現在受け続けている。それは言うまでも無く、シナ人の歴史問題を利用した対日攻撃である。これは本質的に虚偽に基づいた誹謗、中傷であり、偏見、差別、迫害であり、精神へのテロ攻撃である。

 日米安保条約があるために、国土こそ侵略されていないが、精神は既に侵略されているのである。島国育ちで苛烈な民族同士の抗争の経験が乏しく、その上戦後教育の浸透で精神を去勢された日本人は、侵略を侵略と認識する知力と、屈辱を屈辱と感じる感性を喪失している。

 ところで、本年一月十日の産経新聞によれば、中共において、馬立誠などの対日新思考派を批判して、南開大学国際問題研究院院長の張叡壮なる人物は、こう言っているという。「中華民族の偉大な復興に努める現在、まず民族性の改造を忘れてはならない。憤怒を忘れた民族は結局弱者として虐げられるのだ。中国人が世界で最も虐げられた民族という表現には少しも誇張がないのだ」。これはシナ人が自分たちに向かって言っている言葉だが、この言は我々日本人にこそ百パーセント当てはまる。

 今の日本人に最も欠けているのは、精神の侵略者であるシナ人に対する、心の底からの憤怒である。憤怒を忘れた日本人は、シナ人に虐げられるだけでなく、このままでは国土まで侵略され、ついには民族的滅亡に至るだろう。日本人は間抜け、腑抜け、腰抜けの三抜け状態に堕した精神構造を、早急に徹底的に改造しなければならない。

 
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