台湾侵略の次は日本標的
 
國民新聞 平成十七年九月二十五日
本紙論説委員長 酒井 信彦
東京大学教授
 

 最近、露骨なまでに明確になった、日本の運命にも深く関わる重大な外向的環境の変化として、中共とロシアの癒着・結託・野合がある。それは本年の六月から七月にかけて、特に七月上旬に急速に明らかにされたものである。まずその一連の動きを、時系列で述べてみよう。

 六月一日、両国の外相会談が行われ、国境画定の追加協定の批准書が交換された。これは、両国の国境の内、未だに帰属が決まっていなかったアムール川の中の島について帰属を決定したもので、長年に亙って続いていた国境交渉が決着した。

 七月一日、モスクワでプーチンと胡錦涛の首脳会談が行われ、アメリカの一極支配に反対するとともに、ロシアは前言を翻し、日本の国連常任理事国入りに実質的に反対した。特に重要なことは、日本の歴史問題に関して、最近のロシアが顕著に中共に同調する態度を示してきたことである。ロシアの駐日公使は、ヒトラーの共犯者だった歴史を棚に上げて、「日本はアジア太平洋地域での侵略行為をうやむやにし、ナチス・ドイツとの同盟国だった事実を過小評価している」との論文を発表した(朝日新聞七月二日付)。

 また両国は、九月三日の対日戦勝六十年記念日を共に祝うのだという(産経新聞七月二日付)。歴史問題で日本を攻撃するのは、シナ人と朝鮮人だけだと油断している内に、ロシア人まで参加してきているのである。

 七月五日・六日の両日、カザフスタンのアスタナで、上海協力機構(SCO)の首脳会談が行われた。上海協力機構は、中共とロシアと旧ソ連の中央アジア四カ国(カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン)で構成する国際組織であり、ソ連崩壊後の東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)の独立運動に対処するために、中共の提唱で一九九六年に成立したもので、当初から軍事的色彩が極めて強い。

 今回、この会議で決議されたのは、九・一一テロ事件後のアフガニスタン戦争以来、キルギス・ウズベク両国に展開しているアメリカ軍の撤退要求であった。また特に注意すべきは、今年からオブザーバーとして参加した国に、イラン・パキスタンがあり、更に驚くなかれ、インドまでが参加したことである。なおモンゴルは昨年からオブザーバーになっている。

 日本でも中共を牽制するためには、ロシアやインドを利用すべきだとの意見は予てからあったが、ロシアは完全に中共側につき、インドすら怪しいのである。そもそも日本の政治家と官僚に、そんなことが出来る外交能力は全く無いのだが。

 七月八日、プーチン大統領は、サミット後の記者会見で、シベリアから太平洋へ建設するパイプラインにおいては、もっぱら中共向けに石油を供給することにし、日本には供給しないと発表した。

 そして中共とロシアの癒着・野合の極めつけと言うべきものが、両国による始めての合同軍事演習である。この演習は八月十八日に始まり二十五日まで行われ、上海協力機構の国防相が視察する。ロシア極東地方のウラジオストクで開始されたが、そのハイライトは二十三日から二十五日の中共山東半島における上陸演習である。

 演習のタイトルは「平和の使命二〇〇五」で、「テロとの戦いであり、第三国に脅威を与えるものではない」、などとしきりに弁明しているが、それは見え透いた大嘘である。これは明らかに台湾侵略を目的とした予行演習であることは、子供でも分かるだろう。テロ対策に、上陸演習が必要な訳がない。上陸演習の場所は、中共側は当初浙江省を提案したが、台湾に近すぎるためにロシア側が避けたものだと言う(産経新聞八月十一日付)。また参加人員は、ロシア側千八百人に対して、中共側は八千二百人(産経新聞八月十九日付)で、中共主体の演習であることが分かる。

 つまり九・一一テロを最も有効に活用しているのは、アメリカではなくて中共とロシアなのである。中共は東トルキスタンやチベットを、ロシアはチェチェンを、大手を振って弾圧するだけでなく、更なる侵略の口実にしようとしているのである。

 こんなデタラメをやらせてしまっている所に、アメリカの中共及びロシアに対する認識の、驚くべき甘さがある。アメリカが唯一の超大国で、一極支配をしているというのも、大いなる間違いである。アメリカは、特に知力の点において、以前より明らかに衰退している。

 したがって、日本の防衛を根本的にアメリカに頼ることはできない。至極当然のことだが、自分の国は自分で守るしかないのである。それが古今東西変わることの無い真理である。

 上海協力機構には、そのうち南北朝鮮も加入するだろう。そしてその軍事力は、台湾を侵略したら次は、我が日本を侵略の標的にするに違いない。シナ人、ロシア人、朝鮮人は、過去の恨みを晴らさんと、結託して日本に襲いかかるだろう。日本人が現在の白痴的平和主義を清算し、民族の魂を取り戻さなければ、たちまち彼らの餌食になってしまう。

 
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