十字架こそ、侵略のシンボルだ

<日本キリスト教会の自虐・欧米盲従歴史観を糺す>

 

 

【アイデンティティ 第11号平成16年12月1日】

酒井信彦(東京大学教授)

 

 

【日の丸とユニオンジャックどちらが侵略的か】

 現在の日本においては、国旗日の丸に対する凄まじいまでの偏見・差別・迫害がある。左翼教師など虐日日本人が「日の丸は侵略に使われた旗だから、教育の場にそぐわない」と掲揚に反対する。

 しかしこの反対理由こそ全くの屁理屈、無茶苦茶な論理であることは世界史を少し考えればすぐに分かる。例えばイギリスは最大の植民地を領有した国家であり、それを大英帝国と言った。その面積は世界の約4分の1、3300万平方kmであった。したがってイギリス国旗は、世界中で侵略のために最も利用された国旗であることは間違いない。しかしそのためにイギリス国旗を改変すべきだと言った話は聞いたことがない。日の丸有罪論こそダブル・スタンダードを通り越して、驚くべき本末転倒の妄論である。

 ところでイギリス国旗であるユニオンジャックは、イングランド・スコットランド・アイルランドを表す3つの十字から構成されている。後の2つは十字と言っても×型の印しである。十字をデザインした旗といえば、十字軍に使用された各国の旗は、みな十字がかたどられていた。(『世界旗章大図鑑』平凡社)十字軍の行動はキリスト教の立場から見れば聖地解放の義挙かも知れないが、イスラム側から見れば完全な侵略行為であることは言うまでも無い。侵略のシンボルとして現在最も著名なのは、ナチスの鉤十字であるが、十字そのものも世界史において、様々な侵略の場で盛んに使われてきたのである。

 その中でも、十字あるいは十字架が最高度に活用されたのは、ヨーロッパ人のアメリカ大陸への侵略においてであろう。それは中南米では、スペイン人・ポルトガル人の侵略が、カトリックの布教と表裏一体の関係にあったからであり、また北アメリカでは新教徒が新天地を求めて植民活動を行ったからである。つまりカトリック・旧教にしてもプロテスタント・新教にしても、その侵略活動は根本的に宗教的情熱に支えられていた。したがってそこで十字・十字架が積極的に使用されたのは、当然な成り行きであった。

 コロンブスは1492年12月12日、エスパニョラ島(ハイチ島)の海岸に大きな十字架を建てて、領有宣言を行ったのである。このエスパニョラ島では、300万の人口が40年間で20人になり「新大陸」全体ではこの間に1500万人の原住民がキリスト教徒に殺されたと、当時の宣教師ラス・カサスは言っている。(『インディアスの破壊についての簡潔な報告』岩波文庫)この数字がどこまで正確なのか私のあずかり知らぬところだが、神の名において十字架の元に、世界歴史上最大規模の大虐殺が展開されたことは間違いない。ハーケン・クロイツどころかクロイツすなわち十字・十字架そのものが世界史における最高・最大の侵略のシンボルなのである。これが歴史の明白かつ冷厳な真実である。

 

【日本のキリスト教会の反日史観】

 さて日本のキリスト教会は日本の歴史の解釈において、近年著しい偏向振りを見せているが、その典型と言えるのが平成7年(1995)2月に、カトリックの最高幹部の組織である日本カトリック司教団から出された、『平和への決意−戦後50年にあたって−』という文書である。その中で日本の戦争責任に言及して、「日本軍は、朝鮮半島で、中国で、フィリピンで、その他さまざまな地域で人々の人間としての生活を踏みにじり、長い歳月をかけてつくりあげ、伝えられてきたすばらしい伝統、文化を破壊してしまいました。人々の人間としての尊厳を無視し、その残虐な破壊行為によって、武器を持たない、女性や子どもをも含めた、無数の民間人を殺害したのです」と述べている。

 これこそまさにキリスト教徒がアメリカ大陸で、日本とは比較にならない莫大な規模で行ったことではないか。しかしこの文書には、それに対する同じキリスト教徒、しかもカトリックとしての反省・謝罪は全く見られない。

 

【日の丸・君が代・元号に反対】

 この完全に倒錯した歴史観に基づいて、平成13年(2001)2月、日本カトリック正義と平和協議会はカトリック系の学校長に宛てて、「カトリック学校の日の丸・君が代・元号についてのお願い」なる通達をだし、それを使用しない様に要請している。そこではことさらに日本国旗を誹謗・中傷して、次のように言っている。

 「『日の丸』は、旗そのものの起源は古くとも、アジア・太平洋地域の人々にとっては『大日本帝国』軍による侵略のシンボルとして印象づけられています。過去の侵略・植民地化の責任を認めず、戦後補償もしていない日本が、この『日の丸』を国旗として制定することに対して強い憂慮の念を抱きます」。

 本年(平成16年)3月14日付の『カトリック新聞』では、カトリック学校での日の丸・君が代の扱い方の現状について、1面トップで報じている。そこではいろいろな事例が紹介されているが、唯一写真が掲載されているのは三重県津市のセントヨゼフ女子学園高等学校の卒業式である。つまりこれが最も推奨すべき事例なのである。その写真のキャプションに曰く、「校長の意向により、壇上中央には3年前から「日の丸」に替えて十字架を掲げている」。3年前からと言うから、この校長は通達に直ちに従ったのである。ここに表れているのは世界歴史に対する完璧な無知であり、欧米白人キリスト教徒への極度の奴隷根性と、自国・自民族への凄まじい偏見・差別意識である。同胞を貶めることで、自分を良心的な人間と錯覚して悦に入っているのであり、それは醜悪極まりない精神構造であると言わざるを得ない。このような根源的偽善者かつ卑劣漢が、善人面をしてあらゆる分野で大手を振るってまかり通っている事実こそ、現在の日本はすでに精神的亡国状態にあることの、何よりの証拠である。