東アジア共同体構想の欺瞞性と危険性
国民新聞 平成16年8月10日
酒井信彦(東京大学教授)
最近、中共による東シナ海のガス田開発が話題になっている。この7月からようやく日本も自己の排他的経済水域(EEZ)で、中共に事前通告をして調査をやりだしたら、日本のEEZ内で無法な調査をやりまくっている中共が抗議をしてくるのだから、世の中は正に逆さまである。
ただしこのガス田問題については、日本の政治家と官僚が、いままで愚かで卑屈な対応を繰り返して来たことが、根本的原因であると言わざるを得ない。なにしろ中共が欧米資本と組んで、試掘に成功したのは1995年のことで、実に10年近くまえの話である。中共はそんな日本を舐め切って、海洋に対する野望をますます拡大して、日本領土としての沖ノ鳥島の存在さえ否定するようになったのである。
さて、このところ頓に顕在化してきた問題として、東アジア共同体の問題がある。これはヨーロッパの欧州連合(EU)を見本として、アジアにおいても国家の垣根を低くして、共同体を作ろうとの構想であるが、この構想が孕む根本的な欺瞞性に盲目のままに、上滑り的に議論が先行する現状は、真に憂うべきものがある。
ところで東アジア共同体とは言うものの、実際はASEAN(東南アジア諸国連合)から発想してきたもののようである。現在ASEAN10カ国に日中韓3カ国などをプラスした、各種の国際会議が開催されるようになっているが、そこから、より拡大したより緊密な地域連合が構想されたものであろう。
したがって正確には、東・東南アジア共同体、あるいはアジア太平洋地域共同体と言うべきものであろうが、なぜか東アジア共同体と言っている。同共同体は、自由貿易協定(FTA)などの経済的関係から出発して、ゆくゆくは政治・安全保障の関係にまで発展させようとの目論みである。
日本もこの動きに乗り遅れまいと、昨年の11月、東京でASEANと日本の初めての首脳会議を開催した。また最近では7月始めにジャカルタで開かれたASEANプラス日中韓3カ国の外相会議で、日本はこの問題の論点ペーパーを提出した。そして来年中にもその出発点となる、第1回の東アジアサミットが開催されそうな状況であるという。
しかしこの構想は、とんでもない欺瞞に基づいて立案されていることを、見逃してはならない。それは東アジア共同体の見本であるEUが存在するヨーロッパの状況と比較すればすぐに分かる。アジアの客観的状況は、ヨーロッパとは全く違うのである。ヨーロッパでは共産主義国家が消滅したのに、アジアでは共産主義国家がぬけぬけと存続している。EUは今年東方に向かって大きく拡大し、加盟国が15ヶ国から25カ国に増加したが、これはソ連が消滅して東ヨーロッパが自由化されたからである。
しかし、東アジア共同体構想では、中共がそのまま加盟することが当然の前提として語られている。しかもヨーロッパのEUでは、ソ連がまがりなりにも民主化されたロシアですら加盟していない。これはロシアが余りにも巨大すぎて、共同体としてのバランスが取れないからである。この点は東アジア共同体における中共が全く同様な存在であにも拘わらず、意図的に無視されている。
面積の要素だけから考えてみても、中共の面積960万平方キロは、ロシアのウラル山脈より西部を含めたヨーロッパ全域の面積約1000万平方キロに匹敵する。さらに中共は、人工的にも馬鹿馬鹿しいほど巨大な国家である。
それだけではない、中共という国家の最大の問題点は、旧ソ連と同じく他民族を侵略支配している、侵略現行犯国家であるという点にある。民族自決・民族独立の世界史の基本的潮流からいって、中共はソ連のように解体・消滅しなければならない正真正銘の悪の帝国である。
この単純・明解な事実に対して、世界中が目を瞑り、正義が無茶苦茶に踏みにじられているところに、現代世界の腐敗・堕落の根源がある。このような巨大な侵略国家が東アジア共同体に加盟したら、一体如何なることになるのか。
傲慢極まりないシナ人が、その共同体を盟主面して我がまま勝手に支配せんとすることは、全く疑問の余地が無い。すなわち東アジア共同体なるものが、シナ人の更なる侵略にとって、この上なく好適な装置になることは、余りにも明らかである。
東アジア共同体が本格的に形成されれば、そこでは単なる経済的な交流に止まらず、人的な交流が加速度的に深まることは間違いない。これが最も注目すべきポイントである。
そもそもシナ人による侵略の最大の特徴は、シナ人という人間そのものは、私がかねがねシナ侵略主義論で述べてきた如くである。それはシナ人を大量に送り込んで人口構成を逆転し、最終的に原住民族を消滅せしめるやり方であり、現実に中共国内において、着々と実施されている。
つまり、東アジア共同体の形成によって、シナ人は軍事力を使わずして更なる侵略が可能となるのである。
本来、中共の膨張政策に敏感であるべきASEAN諸国の統治者が、この基本的な問題点に無頓着なのは何故なのか。まず中共側からの根回しがかなり効いているのであろう。日本においても、中共に籠絡されている人間は、国家権力の中枢にも多数存在するから、ASEAN諸国においても同様なことは充分に考えられる。
さらにASEAN諸国には、すでに在外シナ人すなわち華僑が大量に存在していて、経済やマスコミを牛耳っており、当然政治にも大きな影響力を持っているから、危機意識を率直に出せない状況にあるのであろう。またシナ人への事大主義にとり憑かれた朝鮮人にも期待できない。ここは日本人が、精神の奴隷状態を脱却し、民族意識を覚醒して踏ん張るしかない。
シナ人侵略主義を打倒・撲滅して、アジアにおける民族独立を達成し、本当の東アジア共同体を構築するのは、日本人に課せられた歴史的使命である。