これからのための提言  −問題はやっと見えて来た−

平成18年8月18日
顧問  栗原宏文

  まず次のことをアピールしたい。近年、北朝鮮による拉致被害者の奪還が重要な課題になっている。洗脳は、肉体的拉致ではないが、精神的拉致に相当するのではなかろうか。人の進む道を誤まらせ、一生を台なしにするだけでなく、その害毒は社会全体に伝染し、次の世代まで遺伝し、国家を衰弱させるという意味では、肉体的拉致以上に罪深いものが
ある。そもそも、これほどまでに洗脳されていなければ、北朝鮮による拉致などは起らなかったはずである。従って脱洗脳は精神的奪還に相当すると思う。精神的に拉致された若者を奪還するのは成人の責任ではないでしょうか。

  最後にこれからのために二つのことを提言したい。

提言一 洗脳の動機について敏感であり続けよう ー洗脳ウィルス対策としてのワクチンー 

  まず「何故洗脳されるのか」を考えよう。それには「洗脳されたい」という動機がある(あった)からと思う。その「洗脳されたい」という動機について、田辺敏雄氏は「検証 旧日本軍の「悪行」ー歪められた歴史像を見直すー」(自由社 平成十五年)で「戦後、国民の側に洗脳を受け入れる素地があった」ことを指摘している。つまり左系メディア・知識人・教育者はそうした国民の動機に応えたに過ぎないというわけである。田辺氏の指摘は「洗脳されたい」という動機を上手く説明し
ていると思う。
  戦後教育からの脱洗脳が進んで、自虐呪縛が終焉したとしても、洗脳の動機(洗脳されたいという欲求)はなくなるわけではないので、脱洗脳問題は永遠の課題である。我々は常に、そうした洗脳の動機について敏感であり続けなくてはならない。今回取り上げた自虐呪縛という問題はいわば、我々日本人が洗脳の動機についてあまりにも鈍感であり過ぎ
たために引き起こされた結果に他ならない。
  洗脳ウィルスが流行しても、良く効くワクチンの用意があれば、その蔓延を抑えることができる。田辺氏の著作は今までで私が知った、最も良く効く(説得力のある)と思うワクチンである。洗脳ウィルスにかかりたくない人、かかった人はぜひ試してみて欲しい。これを機に各種のワクチンが開発されることを期待したい。付録一「われわれ自身も手を貸した虚構の産物」は氏の著作を私が要約したものである。
  さらに私は中帰連(中国の撫順にあった旧日本軍捕虜収容所から帰還した人たちの一部からなる中国帰還者連盟)が作成した映画「日本鬼子」を巡ってある掲示板でやりとりをしたことがあったが、その中で田辺氏の著作の説得力を具体的に紹介したことがあった。付録二「映画「日本鬼子」を巡って」はそのやりとりの記録である。

  次に「洗脳されたいという動機は何故か」を考えよう。それを私はトラウマにもとずく恐怖心だと思う。この恐怖心について、精神科医、土居健郎は「続「甘え」の構造(弘文堂、平成十三年二月)」の中で「日本人の心中深く根ざしている恐怖のなせる業」と指摘している。土居氏の指摘は「洗脳されたい」という動機を精神科医の立場から上手く説明していると思う。付録三「日本人の心中深く根ざしている恐怖のなせる業」は氏の著作から私が抜粋したものである。「われわれ自身も手を貸した虚構の産物」が強力な洗脳ウィルスへの対処ワクチンだとすると、こちらの方は弱い洗脳ウィルスへの対処ワクチンと言えるかも知れない。


提言二 洗脳のプロセスを警戒しよう ー蜘蛛の巣のように張り巡らされた循環構造ー

  動機があるだけでは洗脳は広まらない。広まるにはそれなりの仕組みがあるからである。そうした仕組みについて、都村長生氏は「学校教育の危機、崩壊する家庭教育(なんしょんな香川 第三部 都村長生の最終提言」(平成十年)で、みんな「すり込まれている」という意識がないほどにまで完璧な多重の循環構造の例を紹介しているが、これは洗脳
のプロセスの秘訣を始めて上手く解明したものと思う。
  今回取り上げた自虐呪縛という現象がこれほどまでに完璧なものになってしまったのは何故か。それはみんな「すり込まれている」という意識がないほどにまで完璧な多重の(蜘蛛の巣のように張り巡らされた)循環構造にからめ取られてしまったからなのである。我々はこの循環構造にメスを入れてそのしがらみを緩めなければならない。そのためにも、氏の著作は大いに利用されるべきだと考える。付録四「学校教育の危機、崩壊する家庭教育」は氏の著作を私が要約したものである。

  問題は終わったのではなく、問題はやっと見えて来たのである。