安倍訪米で確立した対米・対中二重隷属体制

平成19年5月17日
  酒井 信彦

 5月14日の産経新聞<正論欄>に、岡崎久彦氏は「安倍総理訪米と慰安婦問題の行方」 と題する一文を寄せて、安倍首相の訪米時の慰安婦問題に関する対応を賞賛している。かねて首相のブレーンの一人と言われている岡崎氏としては、予想された言説とも言えるが、その所論には大きな疑問を感じざるをえない。

  今回の慰安婦問題による対日批判の根本的背景は、「全米の有権者の3分の1に近いといわれるエバンジェリカル(福音伝道派)が絶対的に主張する人権問題なのである」として、「強制の有無など問題ではない。米国内では新聞を含めて何人もこれには抵抗できない」と、戦う前から完全に白旗を揚げてしまうのである。

しかし間違いは間違いであり、冤罪は晴らさなければならない。私が常々言っているように、歴史問題とは、意図的に企てられた日本に対する偏見・差別・迫害であり、精神へのテロ、精神侵略にほかならない。つまり慰安婦問題は、日本の尊厳が無茶苦茶に踏みにじられた、この上ない人権問題である。

  また同氏は、「特に良かったのは『20世紀は人権を無視した時代であり、日本にも責任がある。同情の意と謝罪の念を表明する』という総理発言である」とするが、この総理発言は根本的に間違っている。20世紀は人権を無視した時代であるというのなら、21世紀は一体どうなのか。人権問題は無くなったのか。日本が存在している東アジアには、中共・北朝鮮という世界に類を見ないウルトラ人権侵害国家が存在し、日々国家権力による甚だしい人権侵害行為が実行されているではないか。それには目を瞑っていて幾ら謝罪しても、説得力はまるでない。

  そもそもアメリカ自体が、以前に比較して中共や北朝鮮の人権状況への批判が極めて低調になっている。岡崎氏は、「人権問題は過去と現在を区別しない」といって、懸命にアメリカ人による対日批判に理解を示すが、日本の過去ばかりを追及して、中共・北朝鮮の悲惨極まる現在を容認しているのは、ダブルスタンダードを遥かに越えた、完璧なデタラメである。

  結局、今回の安倍訪米で明確になったのは、アメリカ人もシナ人・朝鮮人と同様に、東京裁判史観を絶対に手放さないという単純な事実である。安倍政権の誕生によって、シナ人による日本に対する精神侵略は完成したと私は考えるが、それは米中共同によるものなのだ。つまり安倍訪中・六者協議の進行・温家宝来日・安倍訪米という一連の出来事の展
開の中で、アメリカと中共による対日共同支配体制、日本の側からいえば対米・対中二重の隷属体制が確立したのである。この二重隷属体制を打倒・破壊し、真の独立・自立を取り戻すことこそ、我々の闘争目標でなければならない。