韓国・朝鮮半島から見た母系的文化・社会の日本
講師:呉 善花(拓殖大学国際開発部教授)
日時:平成18年9月30日
場所:靖国会館
主催:主権回復を目指す会
皆さんこんにちは。今年の夏で来日二十三年になります。来日した時は二十七歳でした。
日本に来て、様々なプロセスを経て日本を理解しているつもりで、日本人論についても
色々本を書かせて頂いております。私の本を読んで頂いた方からは「日本人以上に日本の
ことを知っている」と言われておりますが、理屈としては分かっているつもりでも、実際
二十七歳まで韓国で生活をしていたので、韓国的な考え方や思想で成人してからの来日で
すので、理屈で理解していても、現実は体がついていかないところが沢山あります。その
一つに言葉の問題で、なかなかいまだに発音が直りません。韓国人が一番難しい日本語の
発音で、苦手なのは濁音です。意識していれば濁音になるかも知れませんが、話に夢中に
なると半濁音なのか濁音なのか分からなくなってしまいます。不思議にこれは耳で聞くこ
とがいまだに出来ません。そのため主に物書きを仕事にしている私にとっては、いつも原
稿を書いて赤字が入って戻ってきますが、その時に一番多いのが点々ですね。いつも編集
者から「この点々何とかして下さい」と言われてしまいますが、何とか出来るものではな
くて、点々病患者だと言われています。(笑い)その点お聞き苦しくなるかも知れません
が、全体の流れの中で内容を!
掴んで頂ければ幸いに思います。
今日は日本社会の女帝論について何か話すように言われたのですが、私は「女帝論―
『天皇制度』の源流を訪ねて」(PHP)という本を何年か前に書かせて頂いたのですが、
この問題については難しい問題ということもありまして、背景となるもの、日本社会のベ
ースにあるものを見ていかなければ、ただ表面だけ政治的な側面から見ていては分かりづ
らいのではないのかということです。文化的な側面から眺めてみる日本の天皇ということ
で、その背景にあるものを訪ねて日本全国を歩いて纏めた本なのです。天皇以前、主に神
様の話を中心としたような本です。
先ず女帝がどうの男帝がどうのと言うより以前に、私が見た日本社会、感じたことを述
べさせて頂き、先ず韓国の社会がどのような社会かということから始めます。日本の社会
をお話しさせて頂くとより分かるのではないかと思います。
何と言っても今日本ではヨン様を初めとして韓国男性ブーム、一時的なものかと思いま
したけれども、かなり幅広くなかなか収まらないほど韓国男性、特に俳優ブームが巻き起
こっております。特にヨン様がそのきっかけをつくったのでしょうけれども、ヨン様、イ
・ビョンホンなど韓国人男性は何と魅力的で、何とセクシーで、何と思いやりがあってと
いうようなイメージがとても強くなっています。韓国男性と結婚したいと申し込まれる日
本人女性が後を絶たないということで、去年でしたが、私が韓国に帰りました時に、ある
結婚相談所に行って調べてみたところ、何と韓国の男性と結婚したいと言う日本女性が三
千数百人も申し込んでおりました。その殆どがヨン様、イ・ビョンホンのような男が欲し
いということでしたけれども、そのような男はそう簡単にいるわけがないので困っている
と話していました。
今でもファンクラブ、日本のマスコミが企画をしてファンとの出会いの場を作るという
のがあちこちで沢山行われていますが、有名ではない男優、俳優さんでも企画を作れば必
ず一千人以上はすぐ集まるそうです。入場券がいかに高くても皆買いますし、その入口に
は男優に関する目玉グッズが沢山売られていますが、どんなに高くてもあるものは全部集
めるというのが日本女性達だということなのです。いずれにしてもこのようなことだけを
見ると、日本女性は可笑しいのじゃないかということになってしまいます。ヨン様が話題
になっていた去年、私は韓国女性に色々聞いてみました。「日本でヨン様が、あれほど人
気があるのをどのように思いますか」と聞いてみたら、殆どの韓国女性にこう言われまし
た。「日本女性はどうも分かるようで分からないね。何であんなナヨナヨした男性が好き
なのかさっぱり分からない」と。
韓国ではいまだに力強い男の方が受けるんです。頼れそうな、がっちりした男が受けます。
これは日韓の国民性のあり方が典型的に表れていると思います。ヨン様が何故日本で受け
ているかというと、色々ありますが一つには表面から見た時にナヨナヨして見え、頼れそ
うではありません。ヨン様に何かをしてあげたいという母性本能を働かせてくれる。助け
てあげたい、守ってあげたい、だからヨン様がちょっと悲しい顔をするともう耐えられな
いんですね、日本の女性達は。(笑い)韓国では日本で余り受けていたので「冬のソナタ」
が再び放映されました。けれど、いくら見ても韓国の女性にとっては、ヨン様の魅力は全
くないということなんです。とにかく母性本能を働かせてくれるような男性が日本では受
けがいい。一般的にも日本の男女、夫婦を見てもそんな風に感じます。
韓国社会というのは強烈な夫権社会であります。何故日本女性が韓国男性をセクシーで
あるとか、逞しく感じるのかというと、結婚前までのアプローチの仕方が日本男性にはな
かなか無い、ある種の魅力を感じさせるものがあるんですね。朝鮮半島には伝統的な恋愛
文化というものがあります。主に男性が中心となる恋愛文化なのです。女性はいくら好き
な男性がいても女性の方から男性を誘うことは禁物なのです。そのような精神性はいまだ
にずっと残っており、女性は常に居座っていなければならない。しかし男性は自分が気に
入った女性が現れれば如何なる方法であってもそれを手に入れなければならない。それが
男たるものですよ、というようなことがあります。勿論、昔は恋愛結婚など出来ませんで
したが、上流階層の人達のなかでは、大体結婚は見合結婚でしたが、その他に好きな女性
を別に置くわけです。恋愛というか妾を沢山作るというのは上流社会では当たり前のこと
だったわけです。その時のやり取りが今の若者たちによく受け継がれているわけなのです。
それは男性が気に入った場合は何としても女性を手に入れるということです。しつこく、
しつこく誘っていきますけ!
れども、誘われれば誘われるほど女性はいくら気に入った男性でも拒否していかなけれ
ばならない。抵抗しないと駄目なのです。抵抗すればするほどその女性の価値は高い。こ
れは徹底した儒教社会の伝統なのです。昔は支配階層なのですが、一番下の階層の娘さん
がいて、その娘さんをとても気に入りました。階層が違いますから一回誘えば必ずついて
くるはずなのに、その女性は物凄い悪口を浴びせながら彼のことを批判して抵抗していく
のです。「そんな高い階層だから私のような女を軽く見ているのではないか。簡単に誘う
なんてとんでもないですよ」と、そして抵抗すればするほど男はより燃え上がっていくの
ですね。そして何とかして手に入れようとして積極的に誘って誘ってようやく「そこまで
私のことを好きなのか」ということで女性がついていくというような恋愛の話は昔話にた
くさん出てきます。
このような伝統は韓国が消費社会となりましても、これまでの恋愛感が今の時代に於い
て若者達の間でしっかりと受け継がれているのです。
例えば町を歩いていて気に入った女性が歩いていると、どこまでも何度乗り換えても、
必ず家までついて行くのが韓国の男性です。(笑い)そうすればするほど女性は抵抗し続
けていきます。とんでもない男だと、怒るのですが、怒ると男性は燃えて、燃えて十回、
二十回誘ってようやく応じてくる。そこまで私を好きなのかなということで女性の気持が
動かされる。日本人から見るとストーカーみたいなものですね。このような場面は韓国で
はいたるところにあります。一回二回誘って応じる女性は尻の軽い女性と見られます。儒
教の伝統的な所ではどんなに男性に誘われても軽く応じてはいけませんという名残りです
ね。それが今でも男女のあり方の美意識になっています。今の韓国の若者達は二、三度誘
って応じるような女性は面白くない、最低でも五回以上は誘って応じてくる女性でないと、
と私の甥っ子達、大学生達は言っています。
韓国の諺に「十回叩いて倒れない木はない」というのがあります。どんなに気の強い女
性でもしつこく誘えば必ず応じてくれるというようなことです。私も韓国にいた頃はこれ
が世界の常識だと思っておりました。男性が好きな場合のほうが成功率は高いというのが
今でも韓国のお母さん達が娘に言う言葉です。「貴女が好きな男性よりも好かれる男性と
結婚した方が絶対幸せになれる」ということが鉄則的に言われています。女性が好きで勿
論結婚することもありますけれども、そう簡単に長く続かない、どこか軽く見られてしま
います。
韓国の男性はいかに悪口を言われようとも傷つくことはありません。日本の男性は一度
だけでも強く断られると二度と誘いたくなくってしまうと言われますが、韓国の男は逆に
言うと女を人間として見ていないからですね。そういう関係が韓国の恋愛関係なのです。
その時に韓国の男性がよく言う言葉は甘い言葉なのです。世界で韓国の男性ほど甘い言葉
を口にする国はないと思うほど、「貴方の後ろ姿はお姫様みたいだ」とか、会うやいなや
「貴方が結婚してくれないと死んでしまう」とか、(笑い)実際韓国に行っている若い日
本女性はこのような目にあっています。韓国の女性からみればそれが愛の証拠だと自慢な
のですが、日本女性から見ればストーカーですね。ですから怖いという言い方を沢山の方
から聞きます。たまに日本に帰ると何と刺激がない、誰にも誘われることがない。どちら
がいいのか、怖い韓国の方がいいのか、ソフトでゆるやかな日本の方がいいのか、それに
しても韓国の方は刺激があっていいですねと言われます。自分が女であることを意識させ
られるそうです。
最近、日本でも韓国でも結婚は恋愛結婚ですが、昔は見合い結婚の伝統をお互いに持っ
ているわけなのですが、見合いが少なくなると、出会う場もなくなっているわけです。そ
うすると日本も韓国も結婚する率が低くなって、大変な社会問題になっています。欧米の
場合は色んなパーティがありますから沢山出会う場がありますが、日本も韓国もパーティ
がないのでこれも結婚出来ない原因の一つではないかと思います。しかし日本に比べると
韓国の方が出会う場が多いのです。到るところで韓国の男性は女性を口説いています。気
軽なところでは、急に雨が降り出した時に傘をささないで女性は歩くんですね。すると必
ずどこからか男性が現れて傘をさしかけてくれます。そして短い距離の間であらゆる甘い
言葉をかけてきます。「貴女に一目惚れした」とか、そして電話番号をということになり
ます。傘をさしていない人にはさしてあげるのは社会の礼儀ですが、韓国ではそれを以て
してわざわざ男性は狙う。女性はそれを仕掛けます。しかし私は日本に来て、いくら雨の
中を歩いていても一度も傘をさして貰ったことがありません。(笑い)
韓国では一人でお茶を飲んでいますと、必ずと言っていいほど男性が近づいてきて「座っ
ていいですか」と声をかけられます。待ち合わせだといっても、来られるまでと言うこと
でその僅かの時間にあらゆる甘い言葉をかけてきっかけをつくっていきます。私は日本に
来て、喫茶店でこの二十年以上どれだけ一人で長い時間いても、一度も声をかけられたこ
とがなくて、とても辛くて淋しかったですね。(笑い)これは特別に魅力的な女性という
ことではなくて、それが社会の仕組なのです。男性が集まりますとそのような話ばかりし
ます。そうしますと女性は自分が気に入った人にどういう風に声をかけられるかというこ
とになりますが、女性にはその手立てがないんです。女性の方から貴方が好きよ、と言え
ば言うほど男性は逃げてしまいますから。どうするかというと女性は外見を整えることし
かないのです。ですから韓国の女性にとっては、どんなに内面が素晴らしくても外見には
叶わないと今でも言われています。外見と消費社会の観点から見れば、世界一美人大国に
なっているのが韓国なのです。
それを日本女性達は、韓国が羨ましいということで行きますが、これは美しくなりたい韓
国女性の執念なんですね。社会的に求められるのは「女たるものは外見しかないのだ」と、
いくら教養、学歴があってもそれ以上に外見が社会から求められる。それに対する執念が
物凄く深い。したがって現在、韓国では整形外科が世界一の技術を持っています。私が日
本に来た直後は「日本の技術の方が上よ」と言われましたが、今は韓国の方が圧倒的に技
術は優れているのです。綺麗になりたいという執念があり、それしか価値がないと思えば
綺麗になっていくものなのです。
日本人が韓国に行って街を歩きますと何と美女が多いのかという印象を受けます。印象
を受けるもう一つは表に出ている女性は若くて美女だけなのです。これを極端化すれば北
朝鮮なのですが。とにかく女性は四十歳を過ぎると女の価値がなくなっていきます。そう
するといかに年齢を若く見せるかに執念を燃やします。飛行機に乗りますとスチュワーデ
スが若き美女、空港に着きますと若き美女、驚くのはデパート等の売場は全部若き美女な
んです。レストランのウエイトレス等は、みんな若き美女です。年とった中高年の女性は
目に見えない裏の仕事しか出来ない。ですから家の中に居すわっているべきでしょうとい
うことになってくるわけなのです。四十過ぎればお母さんとしての存在はありますが、社
会的な価値、女としての価値は失ってしまいます。恋愛の段階では本当に女王様のように
女性は扱われます。「冬ソナ」等はその恋愛の段階の話なのです。それを見ると日本女性
は何と韓国の男性は優しいのか、韓国の男性と恋愛をしてみたいと思います。韓国の男性
と恋愛をしますと仕事なんかほっぱらかします。とにかくそれしかないから、一日に何回
も彼女に電話します。不思議!
に周りは仕事の途中でも彼女から電話があれば、彼女が喫茶店で待っていると言われれ
ば、周りの人がいってらっしゃいということで皆助けてくれるわけです。「冬ソナ」のよ
うに、いつ仕事をしているのかと思うくらい恋愛ばかりしていますが、(笑い)実際本当
にそうなのです。
そういう男性が結婚したらどうなるのかというと百八十度変わってしまうのが韓国なの
です。結婚前までは世界で最も口説き文句が上手、女性に優しい。イタリアの男性が女性
に優しいと言われますが、私は韓国の男性の方が優しいと思います。ところがその反動も
あってか、結婚した途端に完璧な男尊女卑の社会に変わっていきます。これが典型的な儒
教社会なのです。日本人にとっての儒教社会は親を大事にするとかいうイメージしかない
のですが、もっと根本にあるのは男尊女卑が徹底している社会で、イスラム圏を除いてそ
の次が韓国の男権社会ではないかと。それほど男尊女卑に急変していきます。
結婚すれば「妻は三日殴らなければ天にのぼる」という言い方をします。韓国に「夫は
天である」という諺があります。天というのは神様です。夫がどんな人であろうとも神様
である。とにかく男性が好きになった場合九〇%成功するのが韓国なのです。女性の方は
男性に好かれて後で心を動かされて男性を好きになっていくわけです。女性の意志という
よりは男性の意志で結婚させられるわけですが、結婚した途端に夫は天であるということ
になります。日本で子供の暴力、夫の暴力という家庭内暴力は韓国とは比べられない位な
のです。誰もそこに介入出来ない。夫婦だからということもあり、夫が妻を殴るのは当た
り前だという昔からの伝統がありますから、家族の中でも兄弟でもそれを見ながらも妻の
立場に立って止めることはしません。妻が悪いことをしたから、殴られるようなことをし
たから、殴られるのは仕方がないうことになってしまいます。激しいか激しくないかは別
にして、昔はそれが当たり前のようにあったのですが、最近は韓国でも国の問題として取
り上げましょうということで、政府に女性府というのが出来ました。そこで大きな問題と
して取り扱っているのは、夫!
による暴力問題、これへの対策ですが、これが年々増えているということです。
韓国では女性が結婚したら先ず男の子を産まなければならないという圧力が凄まじい。
何故男の子を生まなければならないかというと、今は日本以上に少子化社会となっている
ので、一人か二人の子供となっています。現在、小学校、幼稚園で遊んでいる子供達を見
ると男の子ばかりが多いのです。男女の比率が百二十:百位となっています。自然出産と
なればそのようなことにならないのでしょうが、何故そうなるかということなのです。先
ず一人目の子供はそのまま生みます。しかし男の子であれば、これでいいよということで
生まなくなっています。女の子であれば二番目の子供を妊娠します。そして病院へ行って
それを調べて女の子であれば中絶させています。法律では禁じられているのですが、実際
は性別を全部教えて貰います。男の子が生まれるまでは妊娠して、女の子であれば中絶す
るということになりますから、全体の比率から見ると男の子が多いということになってし
まうのです。
儒教社会に徹底した考えなのですが、何故男の子を望むのかといいますと、女性という
のは嫁に行ってしまえば他人だということがありますし、家の後継ぎということで男の子
をとても大切にするのですが、深い伝統的な信仰にまで遡っていかなければよく分からな
いと思います。主に宗教とういものは死後の世界を語るものですが、儒教というのは死後
の世界はあまり語りません。人間というのは永遠に死なないことを善としています。でも
人間というのは誰もが生まれて死んでいくものなのですが、永遠に死なない方法があるわ
けなんです。それが不老長寿、長寿ということが最善とされています。よれよれになって
寝たきりになったとしても生き残ることを善とするわけです。日本人のように死ぬ時まで
仕事をしていたいという理想を美意識としているのと異なり、このような意識は韓国には
ありません。とにかく命ある限り生き残るということ、これは長寿ということと関係して
いるのですが、永遠に死なない方法として、子孫を残し自分の遺伝子を残していく、これ
によって死んだ後も自分の霊を祀ってくれる、そして永遠に自分の遺伝子が繋がっていく
という考え方です。
男の子が生まれますと親が亡くなった時、その命日になると必ずお祀りします。それだ
けではなくて四代まで遡って先祖代々全部をお祀りする、これが儒教なのです。韓国にお
ける親孝行というのは単に自分の親だけでなくて祖先をお祀りする、子孫を残していく、
男の子を生むことも親孝行になります。全部含めたのが儒教的な考え方なのです。自分を
祀ってくれる子孫を残さないということは大変なことになります。自分だけではなく先祖
に対しても大変なことになっていくわけです。もし女の子ばかり生まれて男の子がいない
場合は、養子を貰わなければならないのですが、養子は必ず血の繋がっている人からしか
養子を貰ってはいけないことになっています。日本のような婿養子という考え方が韓国に
はあり得ませんから。韓国の場合は徹底していますから、血の繋がっているところを、遠
くから探してしこなければならない。ですから男の子を生むということが絶対的な価値と
いうことになります。
日本では結婚しない女性を女独身女性とか処女として単純な次元で扱っていますが、韓
国では独身女性、日本とちょっと違って結婚しない人を処女といいます。結婚しないで死
んだ女性、処女鬼霊ほど恐ろしいものはない、とよく言われます。結婚適齢期になっても
結婚しないままで死んだ場合、その霊は物凄く恐ろしいものとなって、村を彷徨(さま)
い、村の一番偉い人から、或いは親戚から村全部に害を与えていくという発想なのです。
韓国では土葬なのですが、その墓の中に棘のある木などをいっぱい入れて、男性のシンボ
ルとなるもの、靴などを入れて埋めるのです。それ程しても霊が外に出て彷徨ってしまう。
昔は各地域に村長であるとかが全部中央から派遣されていました。その時に先ずこの村に
独身の男女がいるかいないかを懸命に探します。そして結婚させる、それが彼等の大きな
役割だったのです。何故かと言いますと霊がさまよって一番害を受けるのは真っ先に自分
なわけですから。その名残りがいまだに残っています。例えば会社で、上司のはこの会社
に独身の男女がいないかと探して、結婚しなさい、結婚しなさいといつも言ってあげたり
します。金正日の北朝鮮、!
拉致された人たちは皆結婚しています。これはその名残りなのです。彼等が別々に死ん
だ時に霊は物凄く怖いものになります。拉致したとしても彼等を全部結婚させる。
それにしも独身のままで死んだ人達もいるのですが、死後の結婚というのも今だに行わ
れています。日本では青森の恐山などで人形などをそこに飾ってあったりしますけれども、
韓国では本当に結婚するのです。例えば男性が亡くなったとすると、近くの村に独身のま
まで死んだ女性を探して親達がお互いに結婚をさせるのですが、その時に人形などを作り、
親戚などが集まって本当の結婚式を行うのです。信仰として行うだけではなくて、男の家
の戸籍に女性の名前が載ります。私の兄も二十四歳で亡くなりましたが、近くの村から独
身のままで亡くなった女性と結婚させました。今、私の戸籍を取りますと、兄が死んだ日
付と結婚した日付は何年か後になっています。それで親戚関係が結ばれて、その女性の霊
は男性の家で毎年命日になると祀り、毎年親戚が集まります。私も会ったことのない女性
なのですが、戸籍にも聞いた名前が載っています。どうしてそういうことになるかといい
ますと、亡くなった夫婦のあとに親戚から養子を貰って後継ぎをさせないと駄目だという
考え方なのです。
しかし最近は少子化なのでそう簡単に親戚の間にも子供がいない。このようないきさつ
から、法律のあり方を問題にして、去年でしたか裁判が起りこれを見直そうという動きが
あります。中国の南部にも若干そういう習慣がありますけれども法律的にはそんなことは
ありません。単なる習慣、信仰的なものではなくて実際法律にもなっていったということ
があるわけなんです。
そのような国から私は日本にやって来ました。一般に韓国人が日本という国をみるとき
日本は物凄く男権社会だと思いますね。特に男性は武士のイメージが強くて、奥さんは夫
に尽くすというイメージがすごく強いです。映画等で見ましたが、奥さんはいつも玄関先
で正座して夫を見送り、帰る時も「お帰りなさい」と正座をして迎える。これが日本女性
のイメージでした。そして強烈な男権社会であるに違いない、表面的から見ると日本も儒
教社会であるということ、これが一般的に思う韓国人から判断する日本社会です。
実際誤解していまして、ある韓国人女性が日本を批判する本を書いたのですが、日本社
会がいかに男尊女卑の社会であるかということを批判していました。私もそのように考え
ていたのですが、どうも日本で生活してみますと、不思議に男権社会だけではなくて女性
が物凄く強い社会のように思えてならないのです。到る所で女性が威張っている(笑い)。
例えばデパートへ行きますと、男性の洋服売場では中高年女性が売っている。ショックで
した。韓国ではありえない光景です。男性の売場ならば若き美女がいた方が商売には有利
だと思ったのですが、男性に聞いてみると「若い女性よりは年輩の女性がいた方が気が楽
ですし、色々見る目もあり、教えてもらえるからいいんですよ」と言われる。もう一つ驚
いたのは食堂なんですね。韓国では食べ物を運ぶのは若き美女でなければ美味しく感じら
れない。(笑い)日本では何故か中高年のおばあさんが着物を着て食べ物を運んでくる。
高級料亭でも大体が、高年女性らが食べ物を運んでくる。日本の男性に聞いてみたら「若
い女性に持ってこられたら、逆に食べ物の味がなくなってしまう。食べ物はお母さんの味
というのがあるんですよ、!
深い味があって安心して食べられる。高級なところへ行けば行くほど礼儀が必要なんで
す。それで伝統が感じられる」と。郵便局でも中高年女性が多い。温泉旅館でも、男性は
見当たらなくて中高年女性が迎えに来てくれる。おかみさんというのが一つの社会の文化
になっているんじゃないですかね。地方に行きますと商店街がありますが、例えば焼き物
の町へ行っても、殆ど中高年女性ばかりが売っています。韓国では四十歳を過ぎたら女で
はなくなるし表に出てはいけないのに、四十歳どころか六十歳になっても表に出ているで
はないか。もっと驚いたのは酒場なんです。韓国では伝統的に酒を飲む時は若き美女でな
ければ酒の味は出ないと言われています。酒場の女性というと儒教的な社会ですから蔑視
することもありますけれど、一方では若き美女に憧れるも場でもあるわけです。酒場で働
くホステスと言えば凄い美女だというイメージがあるんですが、銀座など若き美女がいる
所があれば、信じられないほどのおばあさんがいる所もあって、若き美女がいる所へ行っ
てから「次はこの店へ行きましょう」と連れていかれた所が何と七十歳、八十歳のおばあ
さんがいるじゃないですか。(笑!
い)「こんなところでお酒を飲む気になりますか」と言うと、「人生の相談が
できるし、楽しいですよ」と(笑い)、両方あってバランスがとれているわけなんですね。
韓国の場合は極端です。これしかないという価値観がありますからね。生活すればするほ
どこの社会は本当に不思議な社会だなと。夫婦のあり方にしても女性を物凄く尊重する社
会だなと感じられてならなかった。韓国では常に男性が前に立って女性が一歩下に置かれ
た立場でないと駄目なんです。最近、ある夫婦で、奥さんがお医者さんで、夫はある会社
の社員だったのですが、夫よりも奥さんの給料が多いというのは、夫のやる気を無くして
しまうからといってわざと病院へ行って給料を低くしてもらった。これは韓国では思いや
りのある女性とされるわけです。
日本では男性が威張っているように思われるのですが、一方では女性が物凄く威張って
いる社会、日本には「かかあ天下」「亭主関白」という言葉があります。韓国には「夫は
天である」という諺しかない。かかあ天下の元で亭主関白、これでうまく行っている家庭
が極めて多い。この言葉のあり方というのは、関白というのは天下の元で政務を行うのが
関白なんですね。天下を仕切るのは誰かというと「かかあ」だと言うことなんですね。
日本の男性はよく言います。「うちのかみさんは」とか「うちのかみさんにちょっと相
談してみなければ」とか。かみさんという言い方は、無視出来ない、自分だけでは勝手に
決められない、女性を優位にさせるようなものがあるのではないかと強く感じています。
韓国の夫と妻の関係は、強い立場の夫、それを支える奥さんというのが良いということ
になっています。日本の夫婦はどうやら奥さんの方が上で、夫を手の平の上で扱いながら
色んなことをしてあげるというような印象を強く受けました。
世界では色んな国で女性運動、社会運動、フェミニズムが盛んに起こっていますが、日
本は自由な社会なのに女性による社会運動が余り起こらない。何故かと言いますと、今現
在の日本の社会を見ますと、会社で給料が少ない、地位が上がらないなどという面ばかり
捉えていきますと、あたかも男権社会であるかのように思います。しかし精神的には女性
は優遇されているので、社会運動をする必要がないということなんです。夫は会社で一生
懸命働いているお陰で、子育てが終わった奥さん達は家でやることがないので、観光地に
行きますと女性達の集まりが殆どですね。
封建制度の伝統のある所を探って見なければと全国各地を歩きながら考えますが、日本
独特なものは何かと言いますと、女神という存在が至るところにあります。日本を代表す
る始祖、神話であります天照大御神も女神なのですね。そして伊勢神宮には江戸時代から
今だに日本全国からそこへ詣でる。大の男達がそこへお参りする。韓国には女神という存
在は余りありません。あったとしても田舎の隅にちょこっとあって、おばさんが安産とか
男の子が生まれるようにと拝むくらいのものです。
神話でも女神ですし、日本人男性に女神だから威力が弱いと思いませんかと聞いてみる
と、「男性の神様よりも、女神だからこそ母なる偉大な神様、その威力がすごく感じられ
るのですよ」と言われます。韓国の男性にはあり得ないことです。
韓国では人口の半分くらいがキリスト教です。殆どがカソリックではなくてプロテスタ
ントです。カソリックというのはマリア信仰なのです。日本では一%に満たないクリスチ
ャンであっても殆どがマリア信仰、カソリックなのです。プロテスタントは父なる神様、
その子供であるイエスキリストを信じるプロテスタントの方が圧倒的に韓国では普及され
ています。マリア信仰ならばこれほど普及することはないのです。マリア信仰を信じる韓
国人は殆ど女性なのです。女神に対する韓国人のイメージは物凄く小さくて威力が弱いと
いうイメージがあります。
日本を代表する富士山の神様ですら此の花咲くや姫、これも女神様です。昔から今だに
富士山に通う人達、拝む人達が絶えない。いろんな所に母系的な要素が沢山あります。日
本という国は北方的な所、地勢学的に中国大陸があって、朝鮮半島があって、一番端に日
本があって、日本人はどこから来たかと言う時に、よく北方民族だとか、朝鮮半島から来
たとか力を入れるわけです。それも大切なのですがそれだけでは日本社会をみることが出
来ない。何といっても日本は海に開かれた日本、南方的、島々、太陽、海と太陽と島、こ
れに対する信仰が日本には沢山あります。これがベースになっています。暖かい母なる神、
母なる威力、そのようなベースがあって、その後に北方的なものが入って来て、そこで全
部融合したのが今の日本ではないでしょうか。
朝鮮半島は古い時代にはそのような南方的なものもありましたけれども、長い歴史の流
れの中で、北方民族からの侵略を含めて朝鮮半島は二千年の間に一千回以上の外からの侵
略を受けている。ですから古いものはすべて朝鮮半島から消えてしまっています。中国大
陸も同じなのです。中国も北方民族から絶え間ない侵略を受けてきましたからそのような
精神性が消えていくのです。あの古代の優れた文化文明の名残りが全く無いと言ってもい
いくらいです。
しかし日本では国内では戦争が沢山あったとしても、武士達が戦争をしながらも文化を
壊すことがなかった。逆に深い精神性を組み込みながら文化を作っていった。外国から侵
略を一度も受けていないのが日本の特徴ですし、この辺が外国人から見ると分かるようで
分からないので困ってしまう、ある意味で世界にないものが全部詰まっているのが日本だ
と言っていいと思います。中国大陸から西洋から、高度な文化文明が入ってきたものの独
自の文化を排除しないで、それまで在ったものと融合していったのが日本の特徴なのです。
日本という国で謎と思われていたものが幾つかありますが、その一つ母系的な要素をみ
るには、南方的、母系的、島嶼的、太陽的なものを考えていかなければならないと思って
私は全国を歩きました。
太陽の光を浴びて妊娠したとか、海で禊ぎをして太陽を拝んで妊娠したというような話、
昔話が沢山あります。日本の自然環境がそうなんですけども、水が豊富であるということ、
島国であるということなどなどが全部含まれている、そのような物語が沢山残っています。
「桃太郎」「一寸法師」など全部水と海に関係あるものなのです。川と言っても、山に雨
が降り、滝になって川となって、海へ、再び山に戻って循環するという風に、海の彼方か
ら豊かな幸が流れて来るというような話が沢山あります。日本人にとっての「あの世観」
というのは遠くにはないんです。山の彼方であったり、海の彼方であったり、海の向こう
に見える島なのです。今でも人間が入ってはいけない神島がありますし、神島という名前
が到る所にあります。日本の神話等を見ると、とにかく水平的な、水平線から太陽が昇り
ますが、その光線は上からではなくて横からなんです。水平線から流れてきてその上に大
陸的な垂直神話が入ってくるわけなのです。天孫降臨の話がそこからくる訳なんです。天
から降りてきたという天孫降臨の話は北方に沢山あります。朝鮮半島だけではなくモンゴ
ルとか色んな国に沢山!
あります。天孫降臨の話からスタートすることは政治的なところではないかと思います。
その以前に南方的な水平的なものがあって、その上に融合されていったと思います。天孫
降臨は男性的で水平的な流れるものは母的なもので、それがミックスされていったのだと
思います。そのような考え方が日本人の無意識の内にベースにあるのではないでしょうか。
大和の地域は以前から女性、巫女さんが威力を持った、神がかり的な女性が沢山いたの
ですが、そこに天皇が九州から入ってきまして、その地域の偉い巫女さんと結婚するとい
うような形をとっていくわけです。母系的なものと父系的なもの、それが次第に男権的な
ものが強くなっていきますが、宗教性を持った女性と政治性を持った男性が融合していっ
た。日本の男女のあり方からしても歴史的な流れを見ていきますと、最も古い時代の結婚
観というのが通い婚というのがありました。男性が女性の家に通う。源氏物語にもよくみ
られますが、女性の家に兄や弟、男性がいれば、女性に子供が生まれたら、その家で子供
を育てるとういことになっていたわけです。お兄さんが妹の子供を育てるということです
から、お父さんということをあまり重要視しなかった。源氏物語にもそれが表れていると
いうことではないでしょうか。万葉集などをみてもそうですが、そこには熱い恋愛の話が
殆どです。恋愛と言っても若い男女の恋愛ではなくて殆どが夫婦、主人が妻に対する愛情
なのですね。何故そんな恋愛感情がずうっと続くのかというと、通い婚だったからですね。
たまに会いますから、会い!
たい、会いたいという和歌が沢山残っているというのも通い婚の名残りではないでしょ
うか。そのような経緯を経て、次第に男の所に住むような流れとなっていくようになって
いくのです。世界的にも主に男性の家で暮らすというところが多いのですが、日本の場合
はそれが完全に消えてそのまま男権的なものに変わっていったというよりも、母系的なも
の、通い婚的な要素を含めながらそれが消えないでそのまま男性の所に住むということが、
古い時代から今までずうっと残っているのではないかと私は考えております。
いずれにしても自然観というものに大きな関わりがあって、人類学的にみた時には天皇
のあり方も両系性が含まれていると言われています。何といっても女性は自然に属してい
て、自然に感応してあちら側からの観点を示す。女性は物凄く自然に敏感なんですね。で
すから感が働く。昔から巫女とか神がかり的な女性が多かった。昔はそれで政治をしてい
たのですが、男性は子供を生むことができないために社会派に属していた。ここで考えて
みたいのは、例えば、多分この辺を熊が歩いて行ったという時には女性は感でわかります
が、男性の場合は今までのデータ、科学的に分析して見ていかなければならない。女性の
場合は感を言葉にして社会に実際に役立たせるという関係がずっとあったのではないでし
ょうか。
日本の男女のあり方、社会のあり方は、母系と父系が合体されている。それが日本人の
家族観でありますし、天皇観ではないでしょうか。日本の社会は天皇家の女性の人気が高
い、関心が高いですね。韓国人にしてみれば羨ましい感じです。韓国では女性の精神を支
えてくれる社会的、文化的なシンボルがないのです。それは庶民のかかあ天下の伝統を支
えているのではないかと強く感じております。民間の中でも女帝の支持率が高いというの
もそのようなベースがあるからだと私は考えております。
女帝か男帝かと考えてみますと、今保守派の中では強烈に言われていますが、よく聞い
てみますと物凄く政治的な見方が強いわけです。しかし日本の天皇というのは政治的なシ
ステム的にとらえると本当に分からなくなります。文化的、精神的、進歩的に捉えてもっ
と古い日本の自然感にまで遡っていかないと日本の天皇は分かりません。政治的システム
的に捉えようとすればするほど他の国の王様と同じような感じになってしまいます。王様
とはまるで違うのですね。そうしますと結局二千年の伝統、そのつながりということでし
か見ていかなくなってしまう。もっと古い時代からあるベースまで考えた上で天皇と結び
つけていけば、女帝であれ男帝であれ、そのような背景を含めて未来を考えていくことが
とても大切だと思います。このような母系社会というのは世界でも珍しいですし。 この
間データを探してみたところ、世界の犯罪率を調べてみたところ、驚いたことに強姦罪は
オーストラリアとカナダが一番多い。オーストラリアやカナダは女性に対して優しい、王
様のように扱ってくれると言われる国なんです。その国が世界で最も強姦罪が多い。韓国
もかなり高いが、日本では一番低いところにおかれています。他の犯罪率も低かったです。
これは何を意味しているのか。表面で見る男権社会では日本社会は語れない。ベースにあ
る社会を見ていかなければ日本の精神性は分からないのではないかと思います。そのよう
な側面からこの「女帝論」を書きましたので、二年前に出したのですが、皆様にお読み頂
ければと思います。(文責 西村修平)